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浦和地方裁判所 平成11年(ワ)1531号 判決 2000年10月30日

主文

一  被告らは、連帯して、原告山﨑功一に対し、金二二六五万三八四四円及びこれに対する平成一〇年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告山﨑長洋、同山﨑恵美及び同山﨑登美子に対し、それぞれ金七五五万一二八一円及びこれに対する平成一〇年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、被告らの負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告山﨑功一(以下「原告功一」という。)に対し、二七二三万〇六二〇円及びこれに対する平成一〇年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告山﨑長洋(以下「原告長洋」という。)、同山﨑恵美(以下「原告恵美」という。)及び同山﨑登美子(以下「原告登美子」という。)に対し、それぞれ九〇七万六八七三円及びこれに対する平成一〇年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、交通事故で死亡した山﨑昌子(以下「昌子」という。)の遺族である原告らが、車両運転者である被告井野口恵子(以下「被告恵子」という。)及び車両保有者である同井野口隆之(以下「被告隆之」という。)に対し、損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成一〇年五月一日 午後六時三〇分ころ

(二) 場所 埼玉県鴻巣市人形四丁目六番二二号の交差点

(三) 加害者 被告恵子

(四) 加害車両 自家用普通乗用自動車(大宮七八た八三七五)

(五) 加害車両保有者 被告隆之

(六) 被害者 昌子(昭和一四年四月一日生、死亡時満五九歳)

(七) 事故態様 昌子が自転車で、信号機により交通整理の行われている交差点の横断歩道を青信号に従って横断中に、折から加害車両が昌子と平行して同交差点に差しかかり右折しようとしたが、自車右側部に昌子を巻き込み、ブレーキをかけずにそのまま十数メートル引きずって停車したことにより、昌子に多発肋骨骨折、両側肺挫傷の傷害を負わせ、同日午後一一時一五分死亡するに至らしめた。

2  責任原因

(一) 被告恵子は、交通整理の行われている交差点においては右折する場合、対向車両の有無を確認することに加えて横断歩道上に横断者が存在しないことを確かめて安全を確認してから右折を開始すべき注意義務があったのにこれを怠り、対向車両の通過のみに気をとられて横断中の被害者に気がつかず漫然と右折した過失により、本件事故を起こしたから、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故で被った損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告井野口隆之は、加害車両を所有し、自己のために加害車両を運行の用に供する者であるから、自賠法三条に基づき、原告らが本件事故で被った損害を賠償すべき責任がある。

3  相続

昌子の相続人はその夫である原告功一とその長男である原告長洋、長女である原告恵美、二女である原告登美子であり、原告功一が二分の一、その余の原告三名がそれぞれ六分の一ずつ相続した。

三  争点は損害額である。

(原告らの主張:左記合計五四四六万一二四一円のうち五四四六万一二三九円)

1  葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

2  逸失利益 二六三一万一二四一円

(1) 家業従事者としての逸失利益 二〇六八万八九二九円

平成九年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の五五歳ないし五九歳の年収三四四万〇七〇〇円を基礎収入とし、生活費控除を三割、七〇歳まで稼働できるものとして中間利息を新ホフマン係数で控除する。

(2) 国民年金の逸失利益 五六二万二三一二円

昌子は、本件事故当時、国民年金保険料を四四四か月分納入しており、平成一一年三月三一日から平均余命期間である二八年間、年額四六万六四〇〇円の老齢基礎年金の受給が見込まれていたので、生活費控除を三割とし、新ホフマン係数を用いて中間利息を控除する。

3  死亡慰謝料 二二〇〇万〇〇〇〇円

4  弁護士費用 四九五万〇〇〇〇円

(被告らの主張)

1  逸失利益

(一) 家業従事者としての逸失利益

昌子の収入は、平成九年度の実所得である九〇万円を基礎として算定すべきである。仮に賃金センサスを用いるとしても全年齢平均の年収額三四〇万二一〇〇円を基にし、さらに、被害者が全面的に家事を果していたものとすることには問題があるから、相当割合の減額をすべきである。

中間利息控除の計算式については、ライプニッツ方式が相当である。

稼働期間については六七歳までとし、生活費控除率については四割以上とするのが相当である。

(二) 年金の逸失利益

昌子は年金既受給権者ではないことから、原告らの年金部分の逸失利益の請求は否定されるべきである。

仮に右逸失利益性が肯定されるとしても、支給開始年齢は六五歳とし、中間利息控除の計算式については、ライプニッツ係数を用い、生活費控除率は六割以上とするのが相当であり、掛金の控除がなされるのが相当である。

2  死亡慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

第三争点に対する判断

一  逸失利益

(一)  家事従事者としての逸失利益 一五五六万六五五二円

甲九及び弁論の全趣旨によれば、昌子は、本件事故当時五九歳で家業である畳製造業を手伝うかたわら家事を担当していたこと、平成九年には畳製造業から九〇万円の収入を得ていたこと、原告恵美は幼稚園教諭として働いていたが、転職を計画して本件事故の直前に退職し、事故当時はたまたま無職であったことが認められるから、昌子は、生前家事全般を担当していたものというべきである。そうすると、昌子は、本件事故に遭遇しなければ、六七歳までの八年間就労が可能であって、賃金センサス平成九年第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計・全年齢平均の年収額三四四万〇七〇〇円を得ることができたものであるところ、生活費控除率を三割とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、同女の本件事故当時における逸失利益は次のとおりとなる。

3,440,700×(1-0.3)×6.4632=15,566,552

(二)  老齢基礎年金についての逸失利益 二四二万一一三六円

甲四の7、五、一四、一五及び弁論の全趣旨によれば、昭和一四年四月一日生が受給権を取得するには三七年(四四四月)の加入年数があれば足りること、昌子は、国民年金の保険料を平成一〇年四月まで四四五か月納入しており、平成一一年四月一日には満六〇歳に達するから、その前日の三月三一日には受給権を取得するが、同年二月まで月額一万三三〇〇円の保険料を一〇か月分納入すべきであったこと、昌子は、平成一一年四月より、六五歳支給開始の年金額よりは減額された老齢基礎年金年額四六万六四〇〇円を現実に受給することがほぼ確実であったこと、平成九年における五九歳女子の平均余命は二七・〇四年であることが認められる。

そうすると、昌子が本件事故に遭遇しなければ、満六〇歳から二六年間程度は右年金を受給できたものであるといえる。生活費の控除については、年金がその性質上本人の生活費に充てられる部分が多いものであることを考慮すると六割と解するのが相当であるから、昌子の本件事故当時における年金受給権喪失による逸失利益の原価は、ライプニッツ方式により二七年間及び受給開始までの一年分の中間利息を控除し、前記納付すべき一〇か月分の保険料を控除すると、次のとおりとなる。

466,400×(1-0.5)×(14.8430-0.9523)-133,000=2,421,136

二  慰謝料 二二〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の状況、昌子の生前の生活状況、家族関係、年齢等一切の事情を考慮すると、同女が本件事故により死亡したことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、二二〇〇万円と認めるのが相当である。

三  葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

四  以上の合計は四一一八万七六八八円であり、原告功一が二分の一、その余の原告が各六分の一ずつ相続した。

五  弁護士費用 四一二万円

四一一八万七六八八円の一割である四一二万円が相当であり、原告らは、これを相続分に応じて負担した。

以上の合計は四五三〇万七六八八円である。

(裁判官 木本洋子)

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